UX Advent Calendar 2013というユーザエクスペリエンスに関する記事をみんなで書いて繋いでいこうという趣旨の企画があるのですが、今年はこれにのっかって、UXデザインに関する記事を書いてみることにします。
UXデザイン(UXD)や人間中心デザイン(HCD)は勉強してみて、自分の仕事(UIデザイン)で日々役立ってると感じるんですが、それはUXデザインの手法を知れてよかったというより、その考え方や視点を得られてよかったというものですね。 いろいろあるのですが、今回は_レイヤー思考_というのについて書いてみたいと思います。
天気予報のベストなUIって?
UIデザインのディスカッションは、しばしばそこだけに視点を限定してしまって近視眼的になりがちです。
例えば、天気予報会社がスマホ用の天気予報アプリを作ろうとなった場合、最初のスクリーンで調べる地域を指定するUIは何がいいかという話で、日本地図から絞り込むのがいいか、住所を直接キーワード入力させるのがいいか、いや、地域指定はGPSを使えばそもそも必要なくなりますよね、という話とかがあるかもしれません。
しかし、この議論は地域指定をどうやってしてもらうかが議題で、_指定すること自体は前提_になってしまっています。
ただ、アプリケーションの想定利用シナリオが「多忙な社会人が朝出かける前に今日傘が必要か確認しておきたい」というのであれば、そもそも指定すること自体が時間のロスになるわけですから、一度すれば後は不要という仕組みのほうが望ましいでしょう。
一例として、雨が振りそうな日は指定時刻(例えば家を出る5分前とか)に自動でプッシュ通知で教えてくれる「あめふる」というアプリがあります。
けれど、天気予報を見るときに僕らが見るのって降水確率だけではないですよね。寒い日は一枚余分に羽織って行ったり、さらに風が強い日はマフラーをしたりするかと思います。
すると、先ほどのシナリオは「多忙な社会人が今日の格好や持ち物を手早く決めるための情報を入手したい」と再定義できます。そう考えると、朝起床する時間に自動でアプリが立ち上がっていて、傘の必要性やどういう格好をすればいいかについてアドバイスを得られるというコンセプトが考えられます。
コンセプト例
もはや天気予報アプリではないかもしれませんが、だからこそ_天気予報の_UIを議論しても仕方がなくて、利用シナリオからUIの方向性を考えなければいけません。
ちょっと話をまとめておきましょう。さきほどのシナリオの「〜入手したい」の価値を考えた上で、サービスの価値 → その価値を実現する利用シーン → 利用シーンに最適なUI/操作というステップでまとめてみます(ちなみに、こういうシナリオを段階別にまとめたものを構造化シナリオと言います)
- ユーザ
- 朝早く出勤し、夜遅く帰宅するような多忙な社会人
- シチュエーション
- 朝出かける前
利用シナリオ
- サービスの価値:出かける準備に無駄な時間を使わず、余裕を持って家を出られる
- 価値を実現する利用シーン:傘や服装について必要かどうか手早く決められる
- 利用シーンに最適なUI/操作:朝起きたら、アプリが傘の必要性が必要な服装について教えてくれる
上記の「傘や服装について必要かどうか手早く決められる」ですが、これはアプリでなくても、メール、テレビでも実現できるでしょうね。変わり種で言えばPhilips Hueで雨の日に明かりを青にするとか空想で良ければ自動的に最適な格好を選んで出しておいてくれるクローゼットなんかもあるかもしれません。
要するに、最適なUI/操作はあくまで手段なので、それを実現する手段はいろいろあるわけです。それは価値を実現する利用シーンという目的次第で、ユーザに一番最適なものを選べばいいわけです。
手段は目的次第ですから、今議論していることは何の目的を実現しようとしているのかを常に意識しておく必要があると思います(付け加えると人間は忘れっぽいものなので、目的を常にどこかに見えるようにしておくとベターです。
利用シーンとUIを一緒に並べて対応関係を見るストーリーボーディングとかいいかもしれませんね)
でないと、地域指定UIは何がいいかねという議論、あるいは地域指定のリッチなUIの開発という_本質的でないところ、必要でないところにリソースを割いてしまう_ことになります。
利用シーンを俯瞰して考えてみる
その必要でないところ、というので言うと、さきほどのアプリについて例えば想定ユーザの8割がテレビで天気予報を見ていて、「傘がいるか」「服装はどうだ」みたいな情報を得ているのであれば、アプリさえも不要でしょう。
それは競合アプリが何をしていて、うちはこれがない、あれはあるとかいう枠内で見ていてもしょうがなくて、そのニーズに関する生活シーン全般を見渡して、果たして何が満たされていて、何がそうでないのかを考えないといけないと思うわけです(僕らはしばしば事業者視点でユーザを縦割りにして考えがちですから)
カスタマージャーニーマップというのは、そういう生活シーン全般を見渡して、俯瞰するような役目があって、そうすることでニーズ全体の何がどういう手段で満たされていて、何が満たされていないかを掴むことができます。
また、それを描いておけば、利用状況も実感を持って描けますから、各UIや操作へブレイクダウンする際に最適解を考えやすくなります。
レイヤー思考
ここまで、段階別のシナリオを立ててUIから利用シーン、価値へとさかのぼって考える、利用シーン全般を描いて俯瞰することで必要性や利用状況を明らかにする、ということを見てきました。
僕自身はUIデザインの仕事をしているのですが、UIだけを考えるのではなくて、実際は価値・利用シーン・UI、あるいは製品の組織や地域/社会における意味みたいな複数のレイヤーを行ったり来たりしながら、UIデザインをしています。
これが僕の考えるUXデザインのレイヤー思考というところで、上記のシナリオやカスタマージャーにマップにも見られるようにはそういうところがあるのかなあと思っています(5 Planes Modelには明確に示されていますが、もう少し易しく話したいなと思って書きました)
あと余談として、もう少し僕個人の文脈を明らかにしておくと、お客さんからアプリケーションやウェブサイトの依頼をいただく時には、この画面をなんとかしてほしいというUI/操作の点の話が多いんですね(ディスカッションの現場ではもっと細かくてボタンの位置とかラベルとか・・)
でも、そのUI視点だけでデザインをすると泥沼になるし(そもそも目的がないからできないんですが)、本体必要なかったものを作ってしまうかもしれない。それは結果的にお客さん、僕、ユーザ、社会の誰も得をしない。いいものを作るためにはそのレイヤーに自分がどこにいるのかきちんと把握して、それを場面場面でうまく上下することがいいものを作る秘訣だなあと感じたのですね。
というわけで以上です。次はDaisuke Miyataさんですね!記事公開が遅くなってすみません・・
よくある視点ですけどね
ちょっと注記しとくと、別にこれがUXデザイン独自の考えだって言ってるわけではないです。
目的と手段の峻別とかよく言いますし、「鳥の目・虫の目」とか「消費者はドリルではなく、穴を欲しがっている」みたいな言葉もだいたい同じことを言っていると思います。まあ、ただUXデザインはそういうことを考えるフレームワークはいろいろ用意されていて便利かもしれませんね。
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