要約:具体的だけども曖昧で何ていう言葉でこの考えていることが議論されているのかわからない(キーワードがわからない)という問題(主題検索)を、OPACでどう解決できるかを考えてみた。現段階ではレファレンスをOPACに組み込んでみるのがよいのではと思っています
もう去年末のことになるんですが、制作中の蔵書検索システム(OPAC)のユーザテストをしていました。これについては発見したことも失敗したことも山ほどあって、いずれまとめたいと思っているんですがそれはまた別の機会。
今回のユーザテストでは、そのOPACを一通り使ってもらって目的となる本を見つけられるかどうかというタスクをやってもらった*1 んですが、発見だなと思えることがありました(それだけユーザー調査がうまくできてねーなと反省する限りです)。テストをお願いしたのは同じサークル仲間で、それゆえ割とリラックスしてたからなのか普段通りに考えていたようでした。
こんなユーザテストでした
それで、テストをやっている間に彼女が意識的にやっていたのは*2 、自分が考えている具体的な疑問に対応するキーワードを見つけることでした。つまり、こういう疑問はこういうキーワードで議論されてますよ、というそのキーワードがわかればそれに対応する本やウェブサイトが見つかるわけですが、それがわからないという状況なので、OPACで検索し、その結果で出てきた件名や書籍紹介を見ながらそれを見つけていこうとしていたんですね。
今回、彼女はちびくろサンボ一斉絶版問題というについて考えていました。ある絵本が(本当はそういう意図はないにもかかわらず)差別的な表現があるんじゃないと問題になって、出版社が絶版し、図書館もそれに倣うように本棚から取り除き、結果として本が読めなくなってしまった問題です。似たような問題として完全自殺マニュアルに関する有害図書指定問題が有名ですが、これも含めて一度リンク先を流し読みしてみてください。もちろん、それを調べようと思っていた時点ではこんなに焦点を合わせて筋道だって話してくれたわけではなくて、講義や新聞記事なんかのそういう問題を知ったソースの情報を断片的に継ぎ合わせながらの曖昧だけどもすごく具体的な話し方でした。
余談だけど他に聞いた話では、スタジオジブリの『千と千尋の神隠し』に影響を与えた『霧のむこうのふしぎな町』というお話には「気ちがい通り」という言葉が書かれていて、でも最近の版では「めちゃくちゃ通り」に直されているなんてのもありました。それは抗議があったので直されたらしい(確認してません)んですが、著者の意図は「個性があって、変わり者が集まる通りだよ」という意図があったんだから、ちゃんとそれを汲んであげたらよかったのにとか。
ただ、OPACをはじめ検索エンジンは名詞になったキーワードがないとなかなか有意な検索結果は取り出せません(検索エンジンがキーワード志向なので)。最初はそのキーワードが思いつかなかったのか、自然言語(絶版になった本、置いてはいけない本 差別)で疑問を検索していたんですが、当然結果は0件に。
これはダメだって事で、次に具体的な問題の中で出てくる固有名詞(ちびくろサンボ、霧の向こうのふしぎな町…)をいれて検索するようにすると、それについて扱っていた本(例えば『「ちびくろサンボ」問題を考える―シンポジウム記録』)がいくつかひっかかりました。
ただ、そうした本はあくまで個別具体的事例を扱っている本で、彼女としてはより一般化された問題(この問題で言えば表現の自由と流通の問題で、特に図書館の自由に関連すること)について扱っている本を探しているようでした。で、それを見つけようとOPAC内に載せていたAmazonのレビューから「発禁」や「図書館の自由」という言葉を見つけて再度検索。
「図書館の自由」については、少なく見積もって以下の2つの意味が考えられます。
- 戦前、図書館が体制翼賛的な思想を流通するための機関として機能してしまったことを反省して、再度そうならないよう国民の知る自由を保障するにあたっての図書館の原理原則を示したもの
- 差別用語や差別表現の見受けられる本を公共の施設たる図書館が扱わないようにしてしまって良いのか。それは国民の知る自由を侵害していないかというもの(『ちびくろサンボ』の問題はこっち)
普通に「図書館の自由」で検索すれば、当然上記2点について書かれた本がごっちゃになって出てくるので、利用者はそれを選別しながら見ていく必要があります。それ自体は仕方ないと思うところもあるのですが、彼女はGoogleなどの検索エンジンではストップワードを入れて検索する方法(単語の前に – をつける)を使っているにもかかわらず、それが「通用するかわからない」という理由でそうした方法を採らずに検索していました。
そのせいで、例えば前記「発禁」で検索したときには、わいせつ本など青少年の育成上問題がある本をいかに規制するか(棒読み)ということについて書かれた本ばかり出てきてしまい、「発禁」では目的の本を見つけることが出来ませんでした。
結果から言えば、とっかかりはできたもののシステムを使って一番適切だと思えるキーワードを見つけることは出来ず、結局はGoogleを使って、「図書館の自由と公共の福祉」(今回ならこれがキーワードですね)について書かれてあるページを見つけて、その参考文献リストから本を見つけたのでした。
OPACって疑問を検索しにくいよね問題
結局Google先生を頼らざるを得なかったのは、Googleが図書館OPACよりか自然言語に強く、対象データが圧倒的に豊富なために*3 キーワードになっていない曖昧な言葉でも検索しやすかったからでしょう。これは研究でも明らかにされているようで、ある論文では以下のように言われています(強調を中心に流し読んでみてください)。
Web のサーチエンジンの普及は、図書館における目録利用者の行動にも影響を与えるようになった。
Novotny(2004)は、OPAC の検索経験のない学部新入生とOPAC の検索経験を積んだ大学院生らを被験者に,利用者がどのようにOPAC を検索しているかをプロトコル分析法により調査した。その結果,サーチエンジンの検索経験から著しい影響を受けているという点で両者に共通する傾向が見られた。被験者の多くは、OPAC がサーチエンジンのように機能すると予測し、入力されたクエリーはシステム側で解釈され、処理されて、結果はGoogle のように適合性の高いものから順に表示されると考えていた。
筆者らが短期大学生及び学部1年生を対象にプロトコル分析法を用いて行った調査(2006)では、サーチエンジンの経験を積んだ被験者は、サーチエンジンに特徴的な探索パターンをOPAC にも使用する行動がより顕著であること、主題の階層や目録上の統制語をほとんど意識せずに検索していることからOPAC の主題検索に困難さを感じていることが示されている。
Fast ら(2005)の学部学生と大学院生を対象とした調査では、被験者はWeb の探索結果には検索質問とは無関係で曖昧な情報が多く含まれること、それに対しOPAC では系統だった情報探索が可能であると認識していながらも、探索方法の簡便さからサーチエンジンを好む傾向があることが報告されている。
サーチエンジンの検索に慣れた利用者に対し、OPAC の主題探索機能が限界を示していることは明らかである。
もちろん、テストにあるようにレビューや件名などからキーワードを探してもらうというのも一つの手でしょうが、それは不確実だと思います。それに、今回は具体的な作品があってそこを手がかりに検索できたから良かったですが、そうでない場合、疑問をなんとか統制語に変えるってのは結構しんどい作業だと思うのです。だけれども、考えを深める上で避けては通れない行程の一つだとも思うわけで。
そんなわけで、こういうOPACとGoogle(またはYahoo!)を併用せざるを得ないのって非効率だし不確実だよね、というのが今回彼女の行動を観察した中で思ったことで、OPACだけでどうにかしたいなと思うわけです。
でも、ここまでお読みになった方は既にお気づきになった通り、これはツールの向き不向きが大きく関わっています。つまり、ウェブの検索システムはキーワードがわかっている場合にそのトピックに書かれているものを探すのは結構得意ですが、「具体的だけどそうであるがゆえに曖昧な疑問」を「キーワード」にする(=自然語を統制語に変換する)のはすごく向いていないわけです。逆に、司書さん(レファレンス)や先生に適当な本がないか尋ねてみれば、こういうのは大抵はすぐに解決できるでしょう。ただ、このアナログとデジタルをどうにかして結びつけられないかとも思うわけです。
どう解決するか
案1:司書さんを召還する
そういう文脈から出てきているものかどうかわかりませんが、図書館にはデジタル・レファレンスサービスというものがあります。図書館に行って司書さんに疑問を聞くのがアナログ・レファレンスサービスなら、司書さんにメールを送ったり、図書館のウェブサイトを介したりして聞くのがデジタル・レファレンスサービスですね。教えて! gooやYahoo知恵袋の答える人が全員司書さんだと思ってもらってよいです。
このデジタル・レファレンスサービスの実施状況について調査した研究では、だいたい2/3くらいの大学図書館がデジタル・レファレンスサービスを提供していて、以下のように主にメールを用いて受け付けているようです。ただ個人的には、Eメールは結構敷居の高い手段だなと思っているので(フォームが用意されていればテンプレートに従って書いていけばよいですが、メールってそういうテンプレートがないですからね)、僕も疑問に思っている事があるときにそういうサービスの存在を知ってもやっぱり使わないんじゃないかと思います。
| 項目 | 回答数 |
|---|---|
| Eメール(E-mail) | 247 |
| ウェブフォーム(Web form) | 81 |
| チャット(Chat) | 3 |
| ビデオ会議、テレビ電話など | 4 |
| 掲示板(BBS) | 23 |
| その他 | 2 |
| 全体 | 360 |
で、このデジタル・レファレンスサービスをOPACに組み込んでみてはどうかと思うんです。発想はOPACとパスファインダーを結びつけるのに似たようなもんですね。
この組み込むというのは2つあって、
- 各図書館が受けたレファレンスの内容をウェブ上のデータベースにストックし、OPAC上から検索できるようにする
- OPAC上からデジタル・レファレンスサービスが利用できるようにする
です。要するに教えて! goo 図書館版を検索画面に組み込む感じですね。
ちょっとどう実装すればよいかという話をしてみると、(1) については、国立国会図書館がレファレンス協同データベース事業というのをやっていて、これが参考になると思います。これは各図書館(2008年2月時点で478館)でのレファレンス事例などを集めて、それを検索できるようにデータベース化したサイトです。PORTA APIを通じて、一般の開発者が検索結果を利用することもできますから(プログラミング技術さえあれば)組み込むのはそれほど難しくありません。ただ、このデータベースの検索はやはりキーワード検索で行っているわけですから、自然言語検索に対応するか、データの母数が増えないことには実用的ではないかもしれませんね。
(2) については、検索画面トップにフォームを組み込むにしても、そもそもデジタルレファレンスサービスがされていなければ話になりませんから、できるだけ各図書館がそれを始めるコストが低い方がいいですよね。各OPACベンダーがゼロからシステムを作っていると難しいので、先のレファレンス協同データベースを共通窓口にして、図書館はOPACにコードを埋め込むだけでオッケーみたいなのがよいかもしれません。
案2:疑問に対応した分野を広くブラウジングできるようにする
「ブラウジング」というのは、例えばゆとり教育に対して意見している本がないか棚にある本のタイトルを眺めながら探すとか、レポートに書くテーマを決めるために書架を眺めながら検討していくとかそういう曖昧なリクエストを解決するために行う行動を言います。
ブラウジングの定義についての研究では、正確には「ブラウジングは、出会わなければ必要か判断できない情報を含む、曖昧さを持つ情報要求を満たすため、何らかの期待を抱きながら、利用できる感覚全てを用いて広範で多量な情報源から何らかの基準で必要なものを選び取る情報獲得の一手段である」と定義されています。まぁ、正確なんだけど長いですね…
今回のOPACのユーザ調査でも、OPACで本を探さずに図書館の本棚に直接向かう人も割といる(特に1年生に多い)とわかっていて、それは先のように曖昧な疑問ってOPACじゃ探しにくいよねというの他に、ブラウジングだと(定義からしてですが)そういうリクエストに応えやすいからでしょう。
このブラウジングをインターネット上で実現しようとする場合、二つのアプローチがあると思います。
- NDC十進分類法のような書誌カテゴリから自分の疑問にあてはまりそうだなと思われる分野を選んでもらい、その分野の棚を視覚化し表示する方法
- OPACの検索結果から最も重なりが大きい分野の棚を視覚化し表示する方法

(1) はYahoo!ディレクトリから目的のサイトを見つけるような感じでしょうか。「これは大学教育に関する問題かな」と思って、「社会科学→教育→大学、高等・専門教育、学術行政」と順々に進んでいって、その「大学、高等・専門教育、学術行政」の棚にある本を一覧してもらうと。写真は前に書いた記事で使ったものですが、この考え方はそれと一緒ですね。
(2) はOPACであるキーワードに対する検索結果が出てきて、例えばそれらが大学教育に関する本が70%、教育行政に関する本が20%、地域社会学に関する本が10%あったとして、この場合大学教育に関する本が一番多いから大学教育に関する本棚を
検索結果の隅に表示するとかでしょうか。
ただこれらのアプローチには、自分があてはまると思っている分野しかブラウジングできない、という大きな問題があります。つまり「これは教育問題でこの辺にあるかな」と思っているとそこしか探せないわけで、「先生に聞いてみると実は経済学の問題が深く絡んでたんです」なんて気づきがこのアプローチでは得にくいわけです。そんなわけで、この問題を解決する手段としては補助的なものかもしれません。
案3:連想検索を利用する
連想検索はその名の通り、あるキーワードから連想される資料を見つける検索方法のことです。こと図書検索についてはWebcat Plus 連想検索が割と知られています。
僕もたまに使ってみるんですが、うまく行くときとうまく行かないときがあって、そんなに頼れる感じではないかなと思っています(主観ですが)。
検索例として、「ちびくろサンボは本の内容・意図とは別に存在する社会的な偏見・差別により絶版となってしまったが、そのような問題について扱っている文献について知りたい」と入れて検索してみると、結果はちびくろサンボに関する文献に偏りがちではあるものの『ことばと差別 : 本の絶版を主張する理由(ワケ) 』というなかなか役立ちそうな文献が引っかかりました。かと思えば、「地域社会において子供の遊ぶ場所が施設管理上の問題から年々無くなってきており、子供が健全に発達していくという点から問題視されることについて扱っている文献を知りたい」と入れて検索してみると、テーマとは関係ないような文献しか出てきませんでした。
これはソフトウェアの精度の問題というよりも、利用者による検索語の表現方法の問題だと思います。思っていることを話すのと検索窓に入力するのとはコストが全く異なりますし、前者は明確にキーワードがポンポン出てくるわけではないですから、司書さんに人力逆引きしてもらうようなアナログな探し方が今のところ不可欠ではないかと。
まとめ
ちょっと長くなってしまいましたが、今のところ機械的な操作ではこの問題を解決することは難しいわけで、デジタルレファレンスサービスをOPAC内に組み込むというアナログ融合型の方法が一番有効ではないでしょうか。
- つまり、ゴールは「この本を読んだら、問題がはっきり(または解決)しそう!」と思ってもらうこと[戻る]
- 今回は思考発話法、つまりテストの最中に考えていることを口に出しながらやってもらうテストを行いました[戻る]
- もちろん書籍の中身についてはまだほとんどウェブに出ていませんから、もしかしたら書籍の方が圧倒的に豊富なのかもしれません[戻る]
- キーワード:
この記事はシリーズものの一篇です。Making OPAC 2.0シリーズのそのほかの記事もよろしければご覧ください
このシリーズ記事のフィード





読者のコメント
2件