要約:図書館OPACにおける検索結果をいかに構造化&視覚化して、利用者にわかりやすい形で届けるかというのを、東大の小宮山総長の講義を見ながら考えてみた
せっかく、未踏ユースの話をしたんですから、実現可能性を勘案しながらのせせこましい話じゃなくて、もうちょっと大きなことも考えてみましょう。
で、今回書こうと思うのは、図書館の持つ知の集合体としての蔵書群をいかに構造化して利用者に届けるかという話です。
東大の学術俯瞰講義から
これを考えるきっかけになったのは、東大がオンラインで公開している学術俯瞰講義で、これは大学1,2年生が各々の領域だけでなく、学問領域の全体像を捉えてもらう(俯瞰する)ための講義を録画して無料で公開しているというものです。
で、今回聴いたのは現総長の小宮山さんの講義(資料はこちら)で、これがなかなかいい講義でした。もちろん無料で公開されているので見てもらってもいいんですが(Podcastでも聴けます)、内容で必要なところをかいつまんで説明するとこんな感じです(説明のために何点か図を引用させていただきます。あと、ある程度語弊を恐れず自分の言葉に言い換えているので、小宮山さんの言いたいこととは違ってきている可能性もあることを考慮してください)
学問状況の混沌
まず、既存の学問の状況が混沌としてきているのではないかと。
各研究者が専門分化して自分の分野を掘り下げた結果、知識は爆発的に増えたんだけど、みんながみんな狭い分野の狭い専門家になって、知の断片化が進んでしまったと*1 。つまり、その全体像を捉えられるような人がいなくなっちゃったんじゃないかと言うのです。
ちなみに、ここにある「意外な発見」というのは先のシステムのテーマとも関わる部分で、結構面白いんですが、今回の論旨とは微妙に外れるんで省きます 。
例えば、1900年の光合成の知識はこんな単純だったんですが
今はこんな複雑になっていると。この赤い点々をそれぞれ研究している人がいるんだけど、それを把握する監督がいない状況なんですね。
現実にそういう状況が見て取れる具体例があります。例えば、コンピュータの2000年問題がありましたが、この問題の子細を総合して「これは大丈夫だ」と言えた人は一人もいなかったのだと。例えば、ある社会心理学をテーマにした雑誌を作っているところが、12のジャーナルから3年以内に投稿された38の論文を選んでそこに再投稿したところ、38のうち35までが再投稿と気づかずに査読を通しちゃったと。
知の構造化
この混沌とした状況の中で、複合的なアプローチが求められる医療問題、エネルギー問題、環境問題を考えることはできるのか*2 。この中で、知をちゃんと活用していくためにはそれらをきちんと構造化してやらないといけない。それで、この知の構造化にはいろんなイメージがあり、今回は3つ挙げてらっしゃいました。
全体像を捉える
まず、学問領域の全体像を捉えるという構造化があります。例えば、この図は理科系の学問にあてはめやすい図らしいんですが、まずなんらかの原理(量子力学とかそれをある種の条件で簡単化したニュートン力学とか)があって、それを利用した基礎や応用(ニュートンの運動法則から導出できるナビエ=ストークス方程式は海の流れを説明することが出来、天気予報に応用される)があると。このような整理・構造化を各事象、例えば環境問題の中ではどのような知識がどのように関係しているのかということを理解するために行うと。
全体像の中での詳細像を捉える
次に、この俯瞰をした中で、今自分はどういう領域を研究しているのかを把握するために詳細図を描きます。
例えば、人間の体重を調整するための仕組みはだいたいこうなってます。食べ過ぎて体重が増えると、肥満信号が出て、それを受け取った脳下垂体が食欲を抑制する信号を出して‥という形で太りすぎないように出来ているのですね(これが壊れちゃうと肥満を起こしてしまう)
この中で、赤い線分をより詳細にしてみるとこうなります。講義ではちゃんと説明しているんですが、この図の説明はここではしません。それで、例えばこの「メラノコルチンレセプター」の研究をしていても、そのまま研究内容を言ったのでは誰もわかってくれない。じゃあ、これは「人間に自分の体を正常に動かすためのいろんな仕組みがあって、例えばその中に体重の制御をする仕組みもある。その中で肥満を抑えるための仕組みの中で‥(中略)‥という役割をするのがメラノコルチンレセプターというもので、それを今研究しているんです」という形で言うことで初めて共有可能な知識になるんですね。
ここでは、詳細像そのものではなく、全体像の中での詳細像という流れがこの構造化をするにあたって重要になります。
分野同士を合成する
そして、このような構造化を行った上で、異分野の知識を合成することで、新たな知を生み出すことができると。
例えば、小宮山さんは農学における生態学が結構専門分野と近いらしいんですが、文学の環境倫理学、数理の数学*3 、実はこれらの分野は「自然や文化の多様性」という観点からは、かなり重なるところがあって、一つのテーマ「多様性学」というところから合成してみてみると、これは一つの新たな知として構造化できて面白いことになるのですね。
それが隣の研究室が何をしてるのかわからない状況じゃどうしようもない。だからこそ、分野の合成というものが必要になってくるのだと。
視覚化による知識表現
そして知識の構造化とともに重要なのが知識の表現方法で、情報技術によってその表現が言葉だけでなくて、シミュレーションや視覚化まで可能になってきたと。
例えば、ガンを抑制するメカニズムを説明しようとして
こんなものを出されると、わからない人には眠くなっちゃいますが、
こういう風に分子構造を視覚化することで、「この分子構造のこの部分に薬がこうスポッと入ることで、悪いものが入れなくなってガンが抑制されるんだよ」と実感できる形でわかりやすく説明することが出来るわけです。
蔵書群の構造化
で、えーと、全然かいつまんでねーよという感じだったんですが、この講義を説明することで何が言いたいかというと、この構造化の手法を図書館OPACにも持ち込めないかと言うことです。
学問の断片化と並行して、テキストの断片化も進みつつあるといえるでしょう。そして、現状の文字情報が並んだOPACは、そうした構造がさらに読み取りにくくなっているのではないでしょうか。
検索語のテーマ理解も図れるOPACを、で僕が言ったことはまさにこの構造化そのものです。
こうした構造化を図ることで、図書の各分野におけるマッピングが出来、テーマがあまりわかっていない人へのテーマ理解だけでなく、わかっている人にとっても「この分野にこういう本があったのか」「へー、この分野の本も意外と役立ちそう」など多くの発見を生むことが出来そうです。
視覚化例:Googleマップのメタファを用いた蔵書のマッピング手法
って言っても、これも言葉で表現しても伝わりにくいところですね。なんとか視覚化してみましょう。
そうですね。分類構造は、何でもいいんですが仮に日本十進分類法(NDC)を用いることにしましょう。
例えば、僕は「教養教育」に興味があって、学部1,2回生の頃によく勉強していたんで、この「教養教育」で検索してみましょう。で、ここで得られた検索結果中の蔵書を各学問分野にマッピングしてみるんです。 教養教育は高等教育の枠組みの中でよく語られるので、まず初期状態では焦点がNDC377の「大学、高等・専門教育、学術行政」に合った形になってます。

ただ、これは単に各分野に本をマッピングするだけではなくて、Googleマップの地図サイトのように分野を広げたり(NDCでより大きな分類に移行する)、狭めたり(より小さな分類に移行する)できると。
例えば、これをより大きな枠組みの中で捉えようと思って、スライダコントロールの[-]を押してみる。するとこんな感じに‥

「あれ、初中等教育関係の本にも教養教育に関する本があるんだ!」って感じでまた焦点を変えて、拡大していく‥っていうのを繰り返していくことで、分野横断的に知りたいことについての本が集まるという感じです。
実際には、NDC3桁目以降の分類をどうするか、分類方法は何を使うかと考えないといけないことはたくさんあるんですけどね。分類をより詳細にしたいのなら、「メラノコルチンレセプター」の説明で使ったような図を各所で使えばいいんですが、これができたら知の構造化はとっくに出来てると思うので、ちょっと現実味がなくなります。
まぁ、小宮山さんの言うような生態学と環境倫理学と数学を合成するなんてことを考えると(自分で作っておいて何ですが)NDC分類がこの視覚化にそぐわないことは確かです。
OPACが検索語のテーマを自動で理解して、そのテーマにあらかじめ設定された細かい分類に各蔵書を当てはめる‥なんてことも理想としては考えられますし、小宮山さんの構造化手法により近いんですが、これはこれで現実的に考えると(検索語の解析はさておいて)現在進行形で生成される知識をいかにその構造化された分類に反映させるかというなかなか難しい課題にぶちあたります。
ふむ、でもNDCでもひとまずは本棚のメタファを再現することになるわけで、それでもなかなか面白いかもしれません。
未踏ユースのシステムに活かせる部分はあるかなぁ‥。というかこのことも書けば良かったかな。
NDCを使っての知識の構造の視覚化ってまんま配架じゃ?
まんま配架
ですね。配架の1書誌=1分類という制限をデジタルの利点でもって乗り越えるなら、件名で分類する方法もありますが、個々の件名が独立しているので重層的な構造化がやりにくいかもしれません。ただ、件名の類似性を見て、例えばこの件名とこの件名は一緒に使われることが多いから似た件名なのだろうと判断してテーマ群を作って分類すれば、類似テーマを横断的に見る仕組みは出来ますね。
やっぱり、異分野合成は人間が主体的にやるか、事前に設計しておくかしかないのかな。
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この記事はシリーズものの一篇です。Making OPAC 2.0シリーズのそのほかの記事もよろしければご覧ください
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